脳梗塞のリハビリ費用ってこんなにかかるの?
脳梗塞のリハビリのお金事情。こんなに治療費用が!?
診断された日からはじめる脳梗塞のリハビリ。病状や年齢、発病からの日数によってもうけられる内容や費用が変わってきてしまいます。はじめはとても重症でも、適切な時期に病状や能力に合ったリハビリテーションを行うことで、劇的な回復を遂げる患者さんもおられます。
ここでは脳梗塞の状態に合わせてうけられる様々なリハビリテーションについて紹介するとともに、気になる費用についてもお話ししていきます。
脳梗塞リハビリの種類と内容
リハビリテーションとは、わかりやすく言うと病気で障害やけがを負った場合に、元の生活にもどるか、不自由が少なく生活できるようにする訓練です。
訓練の内容により理学療法、作業療法、言語療法と3つに区分することができ、機能の回復のための訓練や、残っている体の機能をいかした日常生活動作の訓練、杖や車いすの福祉用具の訓練などがあり、脳梗塞の病状に合わせたオーダーメイドのリハビリが必要です。現在では、発症したその日から始めることが必要不可欠という位置づけにまでなってきました。
<超急性期>発病から2週間程度
発病してから体の状態が安定するまではベッドの上での安静が必要になることがあります。人の関節はベッドで安静に寝ていると数時間で固まりはじめ、筋肉は衰えはじめます。1週間の寝たきりで15%、1か月では半分の筋肉が失われるといわれ、腕や足腰の筋肉だけでなく息をする呼吸筋、食事をかんだり飲み込んだりする筋肉まで全身に影響が現れてしまいます。
この時期に大切なことは、全身の関節や筋肉に刺激を与え、関節が固まったり筋肉が衰えない様にする事です。決して激しい運動が必要なわけではなく、腕や肘を曲げる、軽いものを持つ、頭を起こす寝返りをうつなどの病状に影響のないベッドの上で行える、日常生活動作の一部のようなごく簡単なものからで大丈夫です。短時間でも地道につづけることで、残っている能力を失わないようにする大切な時期といえます。
<急性期リハビリ>発症から2か月目頃まで
発症して体の状態が落ち着いてきたら、ベッドから離れてのリハビリテーションが始まります。病気によって生じた障害を本人が理解し、残っている能力に合わせた安全な日常生活動作ができることが目標になります。
2週間を経過しても体の状態が安定しない場合や高次機能障害といわれる脳への大きなダメージがある場合には、リハビリもなかなか積極的に行えないケースもあります。まずはリハビリに耐えられるように病状を安定させることが重要ですので焦らないことも大切です。
積極的にやっていても、目に見えた成果が得られないというもどかしさを感じる患者さんもいらっしゃいます。けれどもこの時期に面倒くさがらず、一見単純な作業でも根気よくつづけることが、この先の回復に大きな影響を与えますので続けることが大切ですし、周囲は本人の頑張りを認めサポートしていくことが求められる時期になります。
急性期の病院ではまずは命を救うことが最優先で、リハビリにかけられる時間も限られてしまうため、病状が安定したらリハビリを行うために専門の回復期リハビリテーション病院に転院される方がほとんどです。
<回復期リハビリ> 発症した日から3~6か月頃
この時期には急性期に入院していた病院から自宅退院する人がいる一方で、リハビリを重点的に行うための施設に転院する人、後遺症が重く入院治療を継続される人とさまざまな経過をたどっていきます。
医療保険制度で手厚いリハビリを受けられるのは150~180日と制限があるため、時間やお金の制限が少なくリハビリを受けられる時間は限られています。
日常生活を安定して送るために強化するべき課題が明確になっている事が多く、回復期リハビリテーション病院では、土日も休まず1日2-3時間の集中的なリハビリで社会復帰や自宅退院を目指すことになります。
リハビリは、オーダーメイドですすめるべきですが、日常生活をおくるために必要な起き上がりや着替え・食事などの動作、杖や車椅子などの福祉用具の使い方や、文字や数字の練習などが、退院に向けてのリハビリとなります。
<維持期リハビリ> それ以降
150~180日をすぎてからは医療保険での手厚いリハビリを受けることができません。医療保険や介護保険で訪問リハビリやリハビリ外来に通う場合でも週1~3回程度、時間もガクンと減ってしまいます。
日常生活においては、できる限り自分で動作をおこなう様にするということも大切なリハビリです。回復期で訓練したことを活かして、患者さんなりに安定した日常生活を遅れるようにしていくことこそが重要なのです。
最近では有名病院で経験を積んだ専門スタッフが、患者さんにあわせたリハビリテーションを提供するスポーツジムのような脳梗塞専門の施設もふえてきました。医療保険が適応されないので、ある程度の自己負担が必要になりますが、その様な施設を併用して利用されるのも選択肢だと思います。
リハビリ期間は脳梗塞の重症度で変わる
脳梗塞は全く後遺症の残らない軽症から、寝たきりで自分での生活が困難になってしまうような状態まで大きな差があります。脳梗塞を発症する部分や大きさ、脳への影響、年齢などの色々な原因がからみあってその差が生まれます。
現行の医療保険制度では
・脳血管障害のみでは150日
・高次機能障害を伴った重症脳梗塞の場合は180日までとなっています。
ご自身や大切なご家族が脳梗塞になったとき、はじめはショックで受け入れることができなかったり、つらそうな様子をみてそこまでしてリハビリをしなくても…と思ってしまうかもしれません。
現行の医療保険制度でリハビリ期間が決まっているということは、裏を返せば、それ以降の期間に重点的にリハビリを行っても回復の程度は芳しくなく、医療費をかけても費用対効果が得られにくいからとされています。
しかし、実際は180日を過ぎても回復はします。当然、回復のスピードは落ちてしまうので、いかに治り易い身体の状態を作った上で、適切なリハビリテーションを十分おこなえるかが重要になってきます。
脳梗塞のリハビリにかかる治療費
医療保険でのリハビリ費用
発病から150~180日までは、医療保険でカバーすることができます。
リハビリは1単位20分という単位で数え、回復期リハビリでは9単位=3時間まで実施することが出来ます。
脳梗塞に対するリハビリの場合は、1単位20分で約2450円の費用がかかり、そのうち1~3割が自己負担分になります。また、回復期リハビリに入院された場合は1日当たり6~9単位のリハビリをおこなうことになり入院費用を合わせると100万円を超える費用が必要になります。
しかし日本では国民皆保険の医療保険制度があるため、先述のように自己負担は1~3割ですので、100万円を超える治療費であったとしても自己負担額が13万円~40万円程度になります。
また、高額療養費制度といって一か月分の治療費の自己負担額が一定金額を超えると、自己負担限度額を超えた金額が払い戻される制度があります。実際にはこの様な制度を活用することになるので、実質的な自己負担分は月2.万4千円~14万と大分抑えられることになります。手続きをどうしたらいいかは、かかりつけの病院のソーシャルワーカー或いは窓口に相談してみるとよいでしょう。
慢性期になってしまうと、医療保険でカバーできるのは週1~2回20~40分程度ですし、料金は1単位20分で1000円~2450円、別途診察代などが加算され、その内1~3割程度が自己負担分となります。
介護保険でのリハビリ費用
介護保険では、訪問リハビリ、通所リハビリ、通所介護にてのリハビリが利用出来ます。
訪問リハビリ
訪問リハビリは理学療法士や作業療法士が来てくれて、自宅で実施するものになります。1回60分程度で寝たきりの利用者さんであればベッド上でできるリハビリテーションを、体を動かせる利用者さんでは室内でのリハビリテーションだけでなく、外に出て杖や歩行器などを使用して歩行訓練をおこなうこともあります。
通所リハビリ
通所リハビリはリハビリのみを専門的に行っている、『デイケア』と呼ばれる施設です。リハビリのみ提供する施設で食事などは提供されませんので、午前中もしくは午後のみの3-4時間程度の短時間の利用となります。自分で通所リハビリ施設まで通っていただくことも可能ですが、自宅まで施設の送迎車が迎えにきてくれますので、通所への負担も軽減され、身体的に障害がある患者さんでも通いやすい環境が整えられています。
実際におこなう内容は病院で行うものに近い機械を使用した専門的なリハビリテーションから、集団でおこなう体操のような簡単なものまでさまざまです。
通所介護
通所介護は一般的に『デイサービス』といわれていて、施設に行き入浴や食事などの日常生活支援をうける介護サービスで、そのなかの介護サービスの一つとしてリハビリテーションを受けるものになります。通所リハビリでは食事や入浴などの介護サービスは提供されませんので、リハビリ以外にも日常生活支援をうけるかたが対象となっています。5~8時間程度の利用時間のなかで食事や入浴・デイケアなどの他のサービスを行いますので、リハビリテーションを受ける時間は30分から1時程度と短めになってしまうことが多くなります。
高齢の方や障害があるかたは自宅に閉じこもりがちですので、通所リハビリ・通所介護リハビリは外に出るきっかけになります。着替えたり・送迎車に乗ったり、リハビリ施設内を移動する、家族以外の人と逢いコミュニケーションをとるという一見些細な行動もリハビリにつながっていきますので、施設に通うリハビリは大きな役割を果たしています。
介護保険で利用できるサービスの内容は、介護度ごとに1か月で利用できる『単位』というものが決まっています。その単位のなかで「福祉用具を借りる」「訪問看護やヘルパー・入浴サービスを利用する」「リハビリを行う」など、必要性にあわせてケアマネージャーがケアプランを作成しています。ケアプランを相談していく際に、安定した日常生活をおくるために何に重点をおいて介護サービスを利用するかによって、1週間・1か月単位でリハビリテーションをどれくらい受けるかが変わってきます。
利用者の介護度や利用時間・地域によって1日当たりの料金は変わってきますが、1割負担の場合は通所リハビリでは331円~1317円、通所介護リハビリでは364円~1150円となっていて、訪問リハビリは1回60分で876円程度となっています。
それ以外の施設は、自費となりますので施設ごと・リハビリ内容ごとに料金は大きくかわってきます。
4)こんなリハビリ病院・施設があります
実際にはどんな病院があるのでしょうか?ここではネットなどで話題の病院をご紹介します。
都会の専門病院で
体の状態が落ち着いてきてリハビリ病院に転院したら、自宅の近くで面会に行きやすいところ、奇麗なところがいいと誰しもが思うでしょう。
ここでは、東京都リハビリテーション病院 http://www.tokyo-reha.jp/ を例にあげていきます。
こちらの病院は東京都のリハビリテーションの基幹病院として、中心的な役割を担っている都立病院になります。毎日の病院生活がリハビリテーションという考えで個別性にあわせたリハビリテーションを提供していますし、墨田区という地域性もあり、退院後も訪問リハビリや外来リハビリを継続できるような地域連携が整っています。可能な範囲で外来で見てもらえるのは、地域密着だからこそ。退院後の安心にも繋がりますね。
田舎の温泉病院で
「湯治」という言葉をご存知ですか?
古くから温泉には様々な効能があると言われており、脳血管疾患の後遺症回復にも効果があると古くから言われている名湯が全国にあります。温泉の効能を治療に活かす「温泉療法」として世界的にも愛され研究も進んでいます。
温泉療法ではお湯の浮力や熱・水圧、泉質を利用し、関節の痛みを和らげたり、麻痺で硬くなってしまった筋肉をほぐして、リハビリテーションの効果をより高めることが目的となっています。
そのためやみくもに温泉に入るのではなく、患者さんそれぞれの目標に合わせて医師の指示のもとにリハビリテーションをおこなっています。
熱川温泉病院 http://www.atagawa.gr.jp/ を例に挙げると、回復期リハビリテーションの一環として医療保険の範囲内で温水プールをもちいたリハビリを取り入れています。熱川という明るく温暖で食も充実した環境での回復期リハビリテーションはきっとよい効果をもたらすでしょう。
全国の有名な温泉地には、自慢の温泉を効果的に取り入れた施設が沢山ありますので、リハビリテーションを頑張りつつゆっくりのんびりしたい方、ご年配の方には人気の施設になっています。
自費でジムのような最先端施設でオリジナルメニュー
こちらは、ここ数年で新たに増えてきたリハビリ施設になります。
脳梗塞リハビリセンター https://noureha.com/
「脳梗塞 リハビリ」で検索すると表示される中にもたくさんあります。
ジムのようなトレーナーではなく、理学療法士・作業療法士・言語療法士など病院と同じように国家資格をもったスタッフが、患者さんの状態に合わせたリハビリテーションを計画し実施してくれます。
リハビリの実施にあたり、毎回バイタルサインの測定・医師の診察を行い、安全なリハビリが行えるようにしています。AI最先端技術を用いたリハビリ効果の評価をおこなっている施設もあり、前述の病院施設と比べると、施設ごとの差別化・ブランド化がみうけられます。
こちらは、料金は自費になります。リハビリテーションの内容・時間によって金額は大きく変わりますが、1時間5000円~2万円程度で、1か月あたりの回数が多いと割引制度があったり、定額料金制度をとっている施設もありますので、一度しらべてみるとよいでしょう。
まとめ
脳梗塞リハビリの目的は病気になる前の状態に戻すのではなく、病気の後遺症とともに残った能力を活かしながら生きていくことです。
後遺症の程度は患者さんそれぞれに差があり、日常生活のどういったところで不自由を感じるかは、年齢や性別・社会的役割によっても異なります。どんな風に回復したいとか、どこかに出かけたいでも構いません、自分の目標をもちそのためにはリハビリテーションでどこを強化していくのか、担当の医師や理学療法士・作業療法士・ケアマネージャーなどと相談して、リハビリをすすめていくことも大切です。
患者さんがリハビリテーションを続けるためには、周囲の理解とサポートも大きな力になります。端から見ていて、全然効果が出ない・がんばっていないんじゃないかと思う事もあるでしょう。同じ病気の人はこれだけよくなったのに…と感じる事もあるかもれません。今は効果が見えなくても、半年後・1年後の機能の回復に重要な役割を担っているのが脳梗塞のリハビリテーションの特徴ともいえます。
患者さんを上手にサポートしいろいろなリハビリを活用して、回復を目指しましょう。
先述のとおり、できる限り早期から可能なリハビリテーションを行い、脳や全身に刺激を与えてあげることが大切ですし、発症から時間が経過してもあきらめずに地道にリハビリテーションを続けること、できることは自分の力であきらめずに行っていくことも機能の回復には重要です。
毎日の変化はなかなか目に見えず、微々たるものかもしれませんが、いろいろなリハビリテーションを継続して行うことは、将来の能力を向上するための一助にしていただきたいです。
この施術ページの監修医師
貴宝院 永稔(きほういん ながとし)
医療法人慶春会 福永記念診療所 部長
株式会社ニューロテックメディカル 代表取締役
株式会社セルリンクス 代表取締役
医療法人交和会 理事長
学歴・職歴
- 平成15年3月
- 大阪医科大学卒業
- 平成15年5月
- 大阪医科大学附属病院にて初期研修
- 平成17年4月
- 大阪医科大学附属病院にて初期研修 修了
- 平成17年5月
- 大阪医科大学(リハビリテーション科)レジデント就任
- 平成19年3月
- 大阪医科大学(リハビリテーション科) 退職
- 平成19年4月
- 大阪医科大学大学院医学研究科(リハビリテーション科)入学
- 平成21年4月
- 医療法人伯鳳会 はくほう会セントラル病院 入職
- 平成23年3月
- 大阪医科大学大学院医学研究科卒業
- 平成30年2月
- 福永記念診療所 部長に就任