脳梗塞は治る病気へ。脳梗塞治療のミライ
脳梗塞は治る病気へ
ここでは、脳梗塞治療の現在とミライの可能性について解説していきます。
脳梗塞治療の決め手。超急性期の血栓治療と早期の後遺症治療
脳梗塞は脳の血管が詰まるために脳の一部が死んでしまう病気です。
治療の決め手は、脳梗塞が起こってから間もない時に行う血栓に対する治療と、早期から行う後遺症対策です。
日本では脳卒中の患者数は約150万人と言われ、毎年25万人以上が新たに発症していると推測されています。
「脳卒中」と「脳梗塞」、言葉の使い分け、ご存じでしょうか?
脳卒中は脳の血管が詰まるか、それとも破れるかによって脳梗塞、脳出血、くも膜下出血に分けられます。血管が詰まってしまう脳梗塞が特に多く、脳卒中全体の60%を占めています。
動脈硬化や心臓の不整脈が原因で血のかたまり(血栓)が作られ、脳の血管をふさいでしまうことで脳梗塞が起きます。この血栓に対する治療が第一の治療の決め手です。
起こって4.5時間以内であればt-PA治療という方法で、24時間以内であれば血管内治療を受けられる可能性があります。この限られた時間内に治療を受けられるかどうかが、その後の経過を左右します。
早期に血栓に対する治療を受けた場合、症状がほぼ無くなるまで改善することもあります。うまくいけば治る、といっても過言ではありません。
ですが、脳の一部が壊死してしまうまで治療が遅れてしまった場合や、血栓に対する治療が受けられない場合、効果不十分である場合には後遺症が残ることになります。
脳梗塞の後遺症は、
・運動麻痺:手足の細かい動きが不十分になる程度のものから、座ってもいられなくなるような重い症状まで、程度によりさまざま
・感覚麻痺:しびれを感じたり、触られた感覚が鈍くなったりするなど。逆に痛みを強く感じたりすることもあります
・高次機能障害:ことばがうまくでてこない、相手の話が理解できない、記憶障害など。興奮する、暴力を振るうなど性格が変化して社会生活に障害がでることもあります。
・嚥下障害、排尿障害:飲み込みや排泄の障害
など非常に多彩な症状が出現します。
これら後遺症は長期にわたるため、早期からリハビリテーションを行い対策していく必要があります。発症して間もないうちはベッド周辺でのリハビリを行い、容態が落ち着いてきたら座る、立つ、歩行など日常生活に必要な基本動作の自立を目指します。
発症後約180日間は後遺症の回復が早いと考えられており、この時期の積極的なリハビリが重要です。脳梗塞リハビリの専門施設では、専門家による機能訓練や、ロボットなどを使用したリハビリ、薬剤を併用したリハビリを受けることができます。
脳梗塞の治療期間
脳梗塞の治療は、発症してから2週間のうちに行われる急性期治療、発症後6ヵ月程度までの回復期治療、その後の維持治療と、時期により分けられます。
急性期は血栓の治療をはじめとした全身状態の管理を行うとともに、体力の低下を防ぐため手足の関節を動かすなど無理のない範囲でリハビリを開始します。
回復期では症状に応じて運動機能や嚥下・言語機能、高次脳機能障害に対するリハビリが行われます。一度回復した機能も、何もしないでいると再び機能が失われてしまうため、維持するためのリハビリを行うべきと考えられます。
脳梗塞の治療期間は、積極的な治療という意味では発症後6ヵ月まで、ということになるかもしれません。しかし維持のためのリハビリ、さらには次項で述べる再発予防を考えに入れると治療には終わりがなく、長く向き合っていくべきものともいえます。
脳梗塞を繰り返す原因とは?再発予防がつなぐ患者のミライ。
脳梗塞を繰り返す原因、それは「脳梗塞が治るから」かもしれません。
どういうこと?と思われたでしょうか。
脳梗塞は、再発しやすい病気です。
そのため、再発予防のために抗血栓薬(血栓ができにくくなる薬)などが処方されます。
それでも10年以内に約半数の人が再発する、というデータがあります。
なぜ再発するのか。それはそもそもなぜ脳梗塞になってしまったのか、ということを考える必要があります。
脳梗塞の主な原因である動脈硬化。加齢により硬くなった血管にコレステロールや脂質でドロドロになった血液が付着し血液の流れが悪くなった状態です。
動脈硬化になってしまうのは、悪玉コレステロールがよく挙げられますが、他にも高血圧、高脂血症、糖尿病といった疾患や喫煙や飲酒などの生活習慣が大きく関わっています。
また、心房細動という不整脈があると、心臓内で血栓が作られ脳に飛んでくる大きなリスクとなります。
動脈硬化や不整脈に対する対策が不十分であると、再発のリスクが高くなります。
脳梗塞になっても軽い症状ですんだ時、治療によって治ったと感じている時などに、これらの原因を軽視してしまうことがあります。
それが、「脳梗塞は治る」から、再発してしまうと書いた理由です。
再発した場合、脳の壊死範囲が大きくなると考えられるので、症状はより重くなる可能性があります。
脳梗塞の再発予防のためには、抗血栓薬を内服するのはもちろん、通院や薬によって高血圧や高脂血症、不整脈などをしっかり治療する必要があります。
また適度な運動をする、血圧を管理する、過度の飲酒や喫煙を避けるといった日頃の健康管理が重要です。
脳梗塞治療にかかるお金。治療費の目安
脳梗塞の治療費はケースによりさまざまですが、おおまかに回復期までの治療費とそれ以降の治療費について考えてみたいと思います。
まず入院治療費についてですが、アクサ生命保険会社さんから出されているモデルケースをお借りしたいと思います。
(引用元:http://www.chibakenseikyo.or.jp/img/parts/hoken/iryoukaigo.pdf)
①重度の脳梗塞で集中治療室に緊急入院。経皮的ステント留置術を受け、91日間入院(急性期病院に22日間、回復期リハビリテーション病院に70日間入院)。
②退院後、4ヶ月間に7日間通院。
公的医療保険の被保険者で70歳未満・年収約370万円~約770万円の方が以上の治療を受けた場合、431,254円が自己負担となるそうです。
(これは一例であり、実際には医療機関・診断内容・治療内容などにより医療費は異なるとの但し書きがあります)
この金額は高額療養費制度という制度を適用しており、年齢が高い場合や年収が低い場合には自己負担はこれよりも低い金額となります。
逆に年収が高い場合や、差額ベッド代(個室などに自ら希望して入る場合)がかかる場合などはこれよりも高い金額となります。
退院後は介護保険を利用したリハビリを受けることができます。これにはデイサービスやデイケアなどで行うリハビリや、訪問リハビリなどがあります。
リハビリ自体は20分間で自己負担は300-900円程度となり軽い負担ですが、後遺症が重く自宅介護が必要になる場合は(あくまで1例ですが)1割負担で月5-10万円、施設入所を検討する場合は安いといわれる特別養護老人ホームでも月15万円以上などの費用がかかってきます。
ですから、後遺症をできるだけ軽くするためのリハビリが非常に重要となってきます。
介護保険を利用したリハビリは集団で行うものが主であり、1回の時間が短い、中々個別には対応してもらえない、というように感じる方も多いようです。
復職に向けて積極的にリハビリをしたい、自分にあったできる限りの機能向上を目指したい、という場合には保険適用外のリハビリを受けることができる施設が広まっています。
後遺症を治す。脳梗塞に対する再生医療
脳梗塞の後遺症を治す。
それは、無理だと考えられてきました。
ノーベル賞を受賞したスペインのS. Ramon Y Cajal博士が19世紀に「成体ほ乳類の中枢神経は損傷を受けると二度と再生しない」と結論づけて以来、脳の神経の損傷による後遺症は元には戻らないものと信じられています。
ですから、脳梗塞の治療はできるだけ損傷を受けないように早期に治療を受ける、損傷を受けてしまった場合は残った機能でできる限りの自立を目指すリハビリをする、ということ以外になかったのです。
しかし近年、後遺症に悩む脳梗塞患者さんにとって光明が差すような研究が進んできています。それが、再生医療です。
再生医療とは、病気やけがで機能が失われた臓器や組織を、患者さんの体外で培養した細胞などで修復し機能を取り戻す方法のことです。
脳梗塞に対する再生医療では、神経の元になる細胞を使用して、脳神経の修復再生を試みます。
元になる細胞のことを、幹細胞といいます。
幹細胞は体内に入ると、さまざまな種類の細胞になることができます。
幹細胞にもいくつか種類がありますが、神経の再生医療に使用可能なものとして有力と考えられているのが、間葉系幹細胞という細胞です。
間葉系幹細胞は、自分の脂肪や骨髄(骨の中)、歯髄(歯の中)などから取り出すことができます。
自分の細胞を使って脳の神経を再生する、まさにミライの治療法です。
最先端の治療であるため、一部の大学病院や専門病院のみで受けられる治療でしたが、近年では民間のクリニックでも受けられる施設が増えてきています。
脳梗塞は治る病気へ。
よりよいミライのために、より一層の発展が望まれます。
この施術ページの監修医師
貴宝院 永稔(きほういん ながとし)
医療法人慶春会 福永記念診療所 部長
株式会社ニューロテックメディカル 代表取締役
株式会社セルリンクス 代表取締役
医療法人交和会 理事長
学歴・職歴
- 平成15年3月
- 大阪医科大学卒業
- 平成15年5月
- 大阪医科大学附属病院にて初期研修
- 平成17年4月
- 大阪医科大学附属病院にて初期研修 修了
- 平成17年5月
- 大阪医科大学(リハビリテーション科)レジデント就任
- 平成19年3月
- 大阪医科大学(リハビリテーション科) 退職
- 平成19年4月
- 大阪医科大学大学院医学研究科(リハビリテーション科)入学
- 平成21年4月
- 医療法人伯鳳会 はくほう会セントラル病院 入職
- 平成23年3月
- 大阪医科大学大学院医学研究科卒業
- 平成30年2月
- 福永記念診療所 部長に就任