脳出血の発症 原因から予防法までを医師が分かりやすく解説します
皆さんこんにちは。福永記念診療所で再生医療部門を担当しております、医師の貴宝院(きほういん)です。
朝晩めっきり冷え込んできましたが、いかがお過ごしですか?この季節、気温差により脳出血のリスクが上がるのをご存知でしょうか?
少し気を付けて貰うだけで、再発予防にも役立ちます。是非、皆様もご自愛ください。
今日は脳出血について出来るだけ分かりやすく解説していきます。
脳出血とは?
脳出血とは、脳卒中の一つで他に脳梗塞やくも膜下出血があります。
高血圧などが原因で脳の血管が破れ出血し、その血液が固まり脳細胞を圧迫し損傷させることで、突然の頭痛や運動麻痺、言語障害など様々な症状を起こす病気です。
軽い痺れなどの症状の場合から、一生手足が不自由になる場合、命を落とす危険にまでつながる可能性もあります。
とても怖い病気ではありますが、脳出血とはどのような病気なのか、その予防法や症状が出たときの対処法、治療法など正しく理解して間違っても逆に脳出血を起こしやすい生活をしないようにして頂きたいと思います。
ご両親が脳出血を患ったから自分も脳出血になるのではと心配される方もいらっしゃいます。しかし、この病気は直接遺伝することはありません。が、今まで一緒に生活してきた親とは生活習慣などは似てしまうものですし、高血圧や生活習慣病などの中には遺伝するものがありますので、脳出血や脳梗塞の家系である方も実際にはおられます。
脳出血の原因
脳出血の最大の原因は高血圧です。
高血圧を長年放ったままにしておくと脳の血管に圧がかかりっぱなしになり血管の壁が傷んでしまい血管壊死の状態になり、ついには破れて出血、脳の中に活液が溢れ出てしまいます。
さらには、高血圧は血管を傷めるため動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞、末梢動脈疾患、くも膜下出血などの原因にもつながります。
高血圧は生活習慣病です。生活の乱れがそもそもの原因ということもいえます。
また高齢者に限りますが、アミロイドというタンパク質が蓄積されることが原因で脳アミロイド血管症も脳出血を引き起こす要因になります。
ちなみに、アミロイドの蓄積は脳出血に加え認知症の原因の一つに挙げられます。アミロイドの蓄積に対する治療法は残念ながら確立されていません。
脳出血の前兆
脳出血は脳の血管が破れて起こる病気です。血管が破れてしまうまでは脳は正常な状態ですので破れそうな状態などの前兆症状などは現れません。ある日突然血管が破れてしまうのが脳出血の恐ろしいところです。
とはいうものの、脳出血の原因のほとんどが高血圧によるものです。血圧が高い方、頭痛や手足の痺れなどが続く方は早めの病院での診察をお勧めいたします。
脳出血の症状
血管が破れ出血した部位や出血の量によって症状はさまざまです。特に多いのが片側の麻痺や痺れ、喋りにくさや歩きにくさなどの言葉や運動の症状に出たり、激しい頭痛や強いめまい、吐き気や嘔吐などの感覚の症状などが出ます。
脳梗塞と似た症状の為、見分けることが難しいのも特徴です。症状は少しずつ悪化することは稀で、短時間のうちに症状が悪化することが多いのも脳梗塞と似ています。
出血量が多かったり、出血した部位の脳が炎症を起こし腫れてくるとさらに症状は悪化します。生命維持に重要な部位に出血すると意識障害を引き起こし、死に至るケースもあります。
症状の種類
1. 被殻(比較)出血
被殻は大脳の中央部に左右一対あり、身体の運動や学習、記憶などの役割を持っています。脳出血の中でも頻度は最も高く脳出血の40〜50%程度を占めます。
片側麻痺の運動障害が強く出ます。高血圧を放置した方に多くみられる部位で、高血圧の方の典型的な部位ともいえます。
2. 視床(ししょう)出血
視床は大脳半球と中脳の間にある間脳の左右一対あり触覚や痛覚などのさまざまな感覚を集約する役割を担っています。脳出血の30%をしめ、高齢に伴い頻度が増える部位になります。片側麻痺といった運動障害程度は軽いのですが、感覚障害が強く出ます。なかでも、耐えがたい激しい痺れや痛みを視床痛といい、この痺れや痛みには消炎鎮痛剤の効果が見られないことが多く、他に決定的な効果があるものがないのが現状です。
また、眼球が下内側を見るような位置になるのも特徴の一つです。
3. 皮質下(ひしつか)出血
大脳半球の表面を覆う大脳皮質の下で起こる脳出血で、脳出血の10〜20%を占めます。大脳皮質の中でも頭頂葉や側頭葉、前頭葉などの皮質下からの出血が多く見られ症状としては、痙攣や片側麻痺、構音障害を引き起こします。また、視野の半分が見にくくなる半盲があります。運動障害など自覚症状がほとんどないため稀に病院を受診せず自然に改善することもあります。
脳の血管に加齢により発生するアミロイドという物質が蓄積し血管を脆弱化させるケースもあります。特に70歳以上の高齢者に多く見られ高血圧の有無に関係なく再発率が高いという特徴もあります。
4. 小脳(しょうのう)出血
小脳は脳幹の後ろにあり、知覚と運動機能を統合し平衡感覚や筋緊張などを調節する役割を持っています。小脳出血は脳出血の10%を占めています。
症状として、突然の頭痛やめまい、立ったり歩いたりなどができなくなるなどの運動失調があります。また、血腫が大きい場合には脳幹が圧迫され生命に危険が及ぶことがあります。
5. 橋(きょう)出血
橋は中枢神経を構成する重要な部位が集まる脳幹に含まれる部位で、上下を中脳と延髄に挟まれ、呼吸や循環、嚥下など生命維持に重要な役割を担っています。橋出血は脳出血の10%を占めています。橋は脳幹の一部のため、重症に至ることが多く発症直後は呼吸抑制が強く起こり意識障害や四肢の麻痺、急速に昏睡状態になり命に危険が及ぶことがあります。
脳出血の後遺症
脳は場所によりいろいろな役割を担っています。出血の場所や出血の量によって症状はもちろんのことながら後遺症もさまざまです。
脳出血で一番多い被殻出血の場合、右脳に出血が起きた場合は左半身、左脳に出血が起きた場合は右半身に片麻痺が起こる可能性があります。また、方麻痺を起こした同じ側に感覚障害を起こす場合が多くあり、手足が痺れたり、物に触れても感覚がなかったり温度を感じないなど感覚が鈍感になることがあります。
脳出血の後遺症として構音障害も多く見られます。大脳皮質の下で出血が起きる皮質下出血を起こすと、言葉や文字を理解できなくなる場合や、喋れないや文字を書けないなど意思の疎通が難しくなることもあります。
また、脳の神経細胞の大部分が集まる小脳や生命維持を担う脳幹部の橋の血管が破れると直で命にかかわります。運良く救命されたとしても、四肢の麻痺や意識障害といった重篤な後遺症が残ることが多くなっています。
さらには、大脳皮質など脳細胞の損傷で高次脳機能障害を引き起こし脳の機能は低下し、神経や心理学的な障害が残ることがあります。
脳出血は脳の血管が詰まる脳梗塞と同様の後遺症が残ることが多く、外見を見ただけでは判別はつけられません。
脳出血の治療
出血量やその症状、治療中の容態の変化などによって薬物療法と外科手術から選択されます。
1. 降圧剤と抗浮腫剤
脳出血急性期は外科的治療の有無に関わらず、降圧剤による血圧のコントロールが基本となります。特に高血圧によって引き起こされた脳出血であれば早急に血圧を下げてあげることが肝要です。血圧を下げることによって脳内にできる血の塊を大きくしないようにしたり、再出血を防ぐ作用があります。
また、同時に脳のむくみ(脳浮腫)によって頭蓋骨内の圧が高まり脳を圧迫し致命傷にならないように脳浮腫を改善させる薬を使用することもあります。
2. 血種除去
出血の量が多く症状が重かったり病状の進行が考えられたりした場合、脳の中に溜まった水を外に出して脳の圧を減らしたり血の塊を取り除く血種除去術を行います。
また、手術には開頭血腫除去術と定位的血腫除去術があります。
・ 開頭血腫除去術:意識障害が強く出血が多い場合に行われます。開頭といって頭の骨を外して脳を一部分切開して出血を吸引します。脳の腫れが強い時は一時的に骨を外したままにし、腫れが引いてから骨を戻します。
・ 定位的血腫溶解除去術:出血が中等度で意識障害は軽いが麻痺が強い場合に行います。まず頭蓋骨に穿頭といって小さな穴を開けます。そこに特殊な装置で出血の中心部に1mm以内の誤差でチューブを挿入し血腫を吸引する方法です。
脳出血の予防
脳出血の予防には大きく分けて2つあります。
1. 血圧のコントロール
脳出血の予防法は脳出血もくも膜下出血も高血圧を防ぐこと血圧のコントロールに尽きます。大規模な調査で分かったことが、血圧が140mmHg/90mmHg以上では優位にそうでない人の群と比べて有意に脳出血が多かったという調査結果があります。
日常生活においては塩分を控える、喫煙や飲酒を控えるなど血圧が正常値内に収まるよう注意をすると共に、定期的な健康診断を受けるなどご自分の血圧を把握することが必要です。もし、高血圧であればお薬を服用し血圧のコントロールに努めてください。また、重症の意識障害をきたして運ばれる脳出血患者さんのほとんどが高血圧を放置していた方もしくは高血圧のお薬を途中でやめてしまっている人が多かったというデータもあります。
2. 検診
脳出血は早期発見で予防することができます。
脳ドックで頭部のMRAを受けましょう。頭部MRAとは、磁気共鳴というブリ現象を利用し血管を立体画像として映し出す検査方法です。この検査では動脈硬化が進行し血流が細くなっている血管を見つけることで脳梗塞を早期で予防することができます。動脈瘤を発見することでくも膜下出血も早期で発見することができます。この頭部MRAの検査で異常がみつからなければ2年間は脳梗塞や脳出血を発症する可能性がかなり低いといえます。
特にくも膜下出血の早期発見には非常に有効で欠かせない検査になります。人間ドックでMRIは撮影してもMRAの検査はされないという方が多いようですが必ずMRAの検査も受けるようにしましょう。
脳出血のリハビリテーション
なぜリハビリテーションが必要なのか。その目的についてお話しします。
脳の血管が破れることで出血し発症する脳出血と、脳の血管が詰まることで発症する脳梗塞は、相反する原因によって発生する脳血管疾患ですが、脳出血も脳梗塞も現れる症状や後遺症に大きな違いはありません。それは、脳出血も脳梗塞も原因こそ違いますが脳の細胞を壊死させることにより起こるものだからです。
リハビリテーションの目的は、脳や身体の機能を回復させる、残った機能を開発、強化することです。脳出血も脳梗塞も現れる症状は出血や梗塞が起きた部位によって異なりますが、実際は後遺症が残ること極めて多いです。そのため、身体の機能や正常な日常生活を送るための能力を取り戻すためにはリハビリテーションが何よりも重要になるのです。
脳は未だ解明されていない部分があり、まだまだ無限の可能性を秘めています。脳細胞に損傷を受けるとその部分は残念ながら治りません。ですが、脳の可能性の一つで脳内の壊れてしまった回路を迂回して新しい別のルートで回路を繋ぎ命令を伝達できるという凄い可能性が残っています。そのため、リハビリテーションは辛いですが継続して長く行い、諦めずに取り組むことが大切です。
※最後に・・・
貴重な時間を割き、最後までお読み頂きましてありがとうございました。
どうですか?脳出血についてお分かり頂けましたでしょうか?
脳出血は怖い病気です。正しく理解し、正しく予防し、正しい治療を行いましょう。
この施術ページの監修医師
貴宝院 永稔(きほういん ながとし)
医療法人慶春会 福永記念診療所 部長
株式会社ニューロテックメディカル 代表取締役
株式会社セルリンクス 代表取締役
医療法人交和会 理事長
学歴・職歴
- 平成15年3月
- 大阪医科大学卒業
- 平成15年5月
- 大阪医科大学附属病院にて初期研修
- 平成17年4月
- 大阪医科大学附属病院にて初期研修 修了
- 平成17年5月
- 大阪医科大学(リハビリテーション科)レジデント就任
- 平成19年3月
- 大阪医科大学(リハビリテーション科) 退職
- 平成19年4月
- 大阪医科大学大学院医学研究科(リハビリテーション科)入学
- 平成21年4月
- 医療法人伯鳳会 はくほう会セントラル病院 入職
- 平成23年3月
- 大阪医科大学大学院医学研究科卒業
- 平成30年2月
- 福永記念診療所 部長に就任